専門は政治学なのだが、大学では日本国憲法の授業も担当している。
教員志望の音大生向けということもあり、やや模索した結果、授業では最初に2本のビデオを見せている。
女子学生が多いこともあるのだが、まず次のビデオを見せる。
【ピデオ『http://www.dkobo.co.jp/kempo/danzyo-byoudou/danzyo-boudou.html』】
【参考文献】
1945年のクリスマス―日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝
- 作者: ベアテ・シロタゴードン,Beate Sirota Gordon,平岡磨紀子
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【『憲法に男女平等起草秘話 (岩波ブックレット (No.400))』】
【『ベアテと語る「女性の幸福」と憲法』】
ビデオを見た後の感想としては、ベアテさんが居てくれてよかった、というのが一番多い。
まあ、それは確かにそうなのだが、では当時の日本人はいったい何をしていたのか、という問題が残る。
そこで次に見せるのが『憲法はまだか』という10年前にNHKで放映されたドラマである。参考→【http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/kennpohamadaka.htm】
松本烝治を主人公に、近衛文麿、幣原喜重郎、吉田茂、芦田均らが登場する昭和20年10月から憲法公布までの憲法制定過程を描いたドラマである。
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当時の日本人(政府関係者)がいかに明治憲法にこだわっていたか、たかだか60年前の日本の状況なのだが、いまの学生たちにはまったく想像が付かない世界のようだ。いまの学生にとって、当時の日本人の天皇制擁護と国体護持という感覚は、現在と完全に断絶した別世界の話のようだ。
このビデオの中で、津川雅彦が演じる主人公である松本烝治は、次の台詞を何度も口にする。
「日本人の憲法は日本人が作るべきなんです」
これには両面からの評価が可能だ。当時の日本人(政府)が作っていたら自由と民主主義を保障する憲法にはなっていなかっただろうことは疑いようの無い事実だとしても、憲法制定権力を有する主権者としての日本国民が未だかつて一度も自国の憲法を作ったことが無いのも疑いようの無い事実である。
さて、憲法公布60周年および施行60周年を迎えるにあたり、現在の私たちは自国の憲法にどう向き合うべきか。
現在の憲法論議はどうも現状に縛られすぎているように思う。言ってみれば60年前に当時の時代感覚に日本政府当局者が縛られていたように、現在の憲法論議も現在の時代感覚に縛られすぎているように思う。憲法改正を論じる側も、憲法改正に反対する側も、どちらも現在の時代感覚から一歩も抜け出せていないように思われる。
当時のGHQ民生局員たちは、ある意味で理想的な未来を思い描きつつ、当時の日本の現状とは全くかけ離れた憲法草案を起草した。また、民間の憲法研究会(鈴木安蔵ら)もあるべき日本の憲法を構想した。
これらに対してもちろん評価はいろいろある。だが、戦後、世界の諸国が見出してきた先進的な憲法条項も大いに取り入れつつ、50年後の未来の世界のあるべき理想の姿や日本のあるべき姿にも思いを至らせつつ、平和憲法をさらに発展させた未来志向の憲法論議も必要ではないのだろうか。数人でいいと思う。今まさに民間の「憲法研究会」が必要なのではないか。現代の鈴木安蔵は果たしてどこかにいるのだろうか。