元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

安倍晋三の時代〜「真正」保守主義政権の誕生へ?


9月の自民党総裁選の結果は99%安倍晋三で確定だろう。国民的人気が衰えない限り、現時点で安倍長期政権の予感もある。


【昨日の新聞記事】産経ニュース


そもそも小泉政権(2001年4月〜)がここまで長期政権化することを予測した人がどれだけ存在しただろうか。
小泉内閣が長期政権化した条件はいくつかあるが、特に次の点が重要である。


第一に、自民党総裁選挙の民主化の進展。自民党内における総裁選出方法の変更による総裁選出プロセスの民主化の進展。あわせて、小選挙区制及び政党助成制度の導入とも連動しているのだが、公認権と政治資金配分権を中軸とした総裁権限および党執行部権限の強化も見逃すことができない。


第二に、衆院選への小選挙区制導入による議院内閣制の民主化。すなわち、中選挙区制の影響もありそれまで議会の事実上の専権事項(細川内閣成立などの例外を除いて、そのほとんどは万年与党自民党の専権事項、さらに言えば派閥領袖レベルによる専権事項)となっていた首相選出プロセスが、小選挙区制導入により総選挙と直結するようになり国民による投票結果に直接左右されるようになったこと。これにより、国会の裁量であった首相選出プロセスが、総選挙による意思表明を通じた国民の裁量に委ねられるようになった。万年与党を前提とした党内派閥力学による総裁・総理選出の時代は10年以上前に終わりを告げており、いまや総選挙に勝利した与党の党首がそのまま首相になる時代が到来している。


第三に、経済財政諮問会議などに象徴される首相権限の強化。多くは橋本内閣時代の中央省庁再編に伴って強化された政治行政制度上の首相権限の強化である。


そしてこれらの条件と連動する形で、第四に、世論の重要性が飛躍的に高まっている。


以上の点に関しては、『首相支配-日本政治の変貌 (中公新書)』がよくまとめてあり、良書である。


さて、安倍晋三は、岸信介(首相=1957年2月〜1960年7月)を祖父に、信介の実弟である佐藤栄作(首相=1964年11月〜1972年7月)を大叔父にもつ政界きってのサラブレットである。
ちなみに、総裁選対抗馬の麻生太郎吉田茂の孫であり、谷垣禎一は元をたどれば芦田均の地盤を引き継いでいるが、現在は宏池会(現谷垣派)会長である。麻生は、1998年末に、宏池会(旧宮澤派)の次期会長に加藤紘一が就任することに反発した河野洋平らとともに宏池会を脱退、現在は河野グループに属している。戦後の政治潮流でみると、麻生と谷垣はいわゆる戦後保守本流に属し、これに対して安倍は、戦後保守傍流に属す。


安倍晋三は、小泉改革の継承を掲げ、戦後憲法と戦後教育の改革に突き進むことが予想される。
ところで、小泉純一郎が壊したのは、実は自民党ではなく、戦後体制の中心に座していた旧田中派宏池会であった。保守本流宏池会保守本流の中の亜流と言われた旧田中派。この二つの潮流は日本の戦後体制の中心にあり続けた。いまわれわれが目撃しているのは、この二つの潮流の没落のプロセスであるとも言える。


さて、安倍晋三の時代の到来とは、ポスト戦後体制における真正の保守主義の登場、すなわち新しい時代における新しい保守本流の登場と位置づけるのは時期尚早だろうか。敗戦と冷戦という戦後日本が置かれてきた国際環境の変化の中で、戦後体制における保守傍流が、時ここに至って、満を持して真正の保守主義として登場しつつあるように見えるのだが、どうだろうか。


かつての保守本流、すなわち旧田中派宏池会に属した政治家たちには、次なる行動が求められていると思う。この点に関しては、2000年末のいわゆる「加藤の乱」の不甲斐なさだけは繰り返して欲しくないと思う(離党を覚悟せずに乱を起こしたこと自体が僕には未だに信じられないのだが)。


さて、9月には安倍総裁が誕生し、小沢民主党との対決が当面の焦点になるだろうが、自民党内(とくに「旧」保守本流)の動静にも注目したいところである。


政局は来年2007年7月の参院選の結果次第だが、安倍政権に対する国民の支持が持続し、かつ、安倍政権に大きな失策が見られず、かつ、公明党並びに自民党内に離反の動きが生まれない限り、政局の大きな変動が無いまま安倍政権が持続するというのが可能性の高いシナリオだろう。07年参院選自民党が勝利すれば、衆院選は2008年秋以降おそらく2009年夏まで解散は考えにくいから、少なくとも3年は安倍政権が続く可能性が高い。ただし、日本の政局に影響を与える動向の一つとして、次期アメリカ大統領選があげられる。


次期アメリカ大統領選は、2008年11月4日に実施される予定である(正式就任は2009年1月20日の予定)。合衆国憲法修正第22条により三選は禁じられており、ブッシュの再選は無い。新人候補同士の争いとなる。選挙結果のゆくえはもちろん大統領候補者次第だが、現在のアメリカ国内の世論動向から判断する限り、民主党大統領誕生の可能性が高いと思われる。おそらくアメリカ以外の先進諸国の動向も含め、この時期、保守路線に対する反動が予想される。もちろん政局次第だが、仮に安倍政権が実現した場合、総選挙を有利に闘うためにアメリカ大統領選挙前に総選挙を実施する可能性も考えられる。アメリカ大統領選挙の動向が、日本でも民主党が政権獲得する条件として有利に働く可能性も考えられる。


もちろん、政治の世界は一寸先は闇であり、何が起こるかわからない。争点としては、憲法改正教育基本法の改正、アジア外交と対米外交のあり方、国際貢献と安全保障問題、年金制度や少子化並びに若年者対策を含む社会保障関連、地方分権改革といったあたりがどう展開していくかだろう。