元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

国益とは?責任政党とは?〜テロ対策特別措置法をめぐって

 いわゆる「テロ対策特措法」の延長をめぐる問題が当面の政治的焦点のひとつになっている。
 産経新聞の報道をネタにしながら、少しコメントしてみようと思う。

 この問題をめぐり、「シーファー駐日米大使は3日、日本人記者団との懇談で「日米同盟は党派を超えた重要なもの」と強調、来週中に小沢一郎民主党代表と会談し、11月に期限が切れるテロ対策特別措置法の延長がいかに日本と世界に重要かを説得する意欲」を明らかにしていた。(産経ニュース)
 上記のとおり、「シーファー氏は、参院で野党が過半数を制した事態を受け、参院第1党となった民主党の協力を得るため小沢氏に会談を申し入れていた」が、「民主党小沢一郎代表とシーファー駐日米大使が8日夕に党本部で会談することが6日、決まった。」(産経ニュース)

 しかしながら、「民主、社民、国民新の野党3幹事長は6日夜、都内で会談し、11月1日で期限が切れるテロ対策特別措置法の延長に反対する方針で一致」しており、この野党の方針は、小沢=シーファー会談の後も、変わらないだろうと思われる。(産経ニュース)


 この問題をめぐる与野党の状況は、現時点での報道によれば次のようになっている。
 テロ特措法の延長問題は、「日本の国際的信用が問われるテーマだが、民主党は政権に揺さぶりをかけ、状況によっては安倍晋三首相の退陣・衆院解散に追い込む構え」との報道もある。
 自民党内では、町村信孝(町村派会長)が「特措法の内容自体を修正する可能性に言及」する一方で、「民主党が求めていた国会の事前承認について、「国会がチェック機能を果たす観点から、1年ごとの延長という仕切りを設けている。今の制度で十分」(小池百合子防衛相)」と、特措法の修正自体に否定的な意見も根強い。
 これに対し、「民主党は過去3回の延長時、国会の事前承認や国会に対する活動報告の強化を求め、いずれも反対してきた」経緯もあり、小沢一郎代表は「(これまで)反対したのに、今度賛成するはずがない」と明言していると言う。
 ただし、民主党内には、「「(延長反対で)米国との関係をまずくするのは、政権担当能力が問われる」(前原誠司元代表)といった意見」もある。(以上、産経ニュースより引用)

 

 そんな中で、気になるのは次のような主張だ。

 「改正案への賛否は民主党が責任政党たりうるかの試金石になる」(自民党防衛庁長官経験者)
 「テロとの戦いからわが国が引き下がることは、責任ある政党としての結論ではない」(小池百合子防衛相)
          (http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/72653/)

 「民主党は過去2回反対したが、今回は反対したら延長できなくなる。参院過半数を得たなら国の責任について考えなければならないのでは」
 「対立する法案や国会同意人事でもまとめないと成立しない。結果としてみんなで賛成する挙国一致政治にならざるを得ない」(以上、河野洋平衆院議長)
          (産経ニュース)

 「参院の第一党になった民主党が、責任政党の道を歩むのかどうか。」
 「日米同盟や日本の国際的信用など、国益を考えた対応をとれないようでは、参院選民主党を勝たせた有権者の多くが「やはり政権は任せられない」と見放すに違いない。」
 「この際、小沢氏は「政策より政局の人」という不本意なレッテルを返上すべきである。」(以上、産経新聞「主張」)
          (http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070803/shc070803001.htm)



 キーワードは、「責任政党」「挙国一致」「国益」「政局より政策」などである。
 
 ここには独特の論法がある。

 まず第一に、テロ特措法の延長に反対するのは「責任政党ではない」というロジックである。テロ特措法の延長に反対すると、なぜ「責任政党ではない」ことになるのか。

 「国益に反する」からというのがその理由である。これが第二のロジックである。「国益に反する」ことをするようでは、「責任政党」とはいえない。加えて、「国益」のためには「挙国一致」政治で望むべきとの衆院議長の発言もある。政党政治の否定につながりかねない衆院議長のこうした発言はいかがなものだろうか。

 第三のロジックは、「責任政党」として「国益」を重視するのであれば、この問題を「政局にしてはならない」というものである。「政局より政策」である。「政局」にするなどもってのほかだというわけである。



 同じ意見は民主党内にもある。
 「(延長反対で)米国との関係をまずくするのは、政権担当能力が問われる」(前原誠司元代表


 ここで問題は、「国益」とはなにかである。

 民主党前原誠司氏が率直かつ素朴に述べているように、「米国との関係をまずくする」=「国益に反する」ということだ。
 さらに言えば、この前原発言には、「米国との関係をまずくする」=「自民党との関係もまずくする」=「政局にする」というニュアンスも含まれている。


 ここには、「テロ特措法の延長に賛成する」=「米国との関係を良好に保てる」=「国益にかなう」という三段論法がある。

 しかしである。
 
 テロ特措法の延長問題は、国民にとってそれほど自明だろうか。

 テロ特措法の延長問題について議論すること自体、「国益とはなにか」を議論するよい機会ではないのか。

 この問題について国会で与野党が表立って論戦することが、なぜ「国益」に反することになるのだろうか。


 先に引用した産経新聞の記事の中には、社説ならまだしも、とても報道記事とは言えない次のような記述がある。 
 「民主党内にはテロ特措法の延長阻止を通じて安倍晋三政権退陣や衆院解散総選挙に追い込む計算もあるとされるが、シーファー・小沢会談が設定されたことによって、民主党が日米同盟の意義を選ぶか、延長問題を政争の道具にするかきわめて重大な選択を迫られることになった。」
          (産経ニュース)


 ポイントは二つある。

 1)「シーファー・小沢会談が設定されたことによって」という表現。
 自民党安倍総理では小沢を抑えきれないから「アメリカからの外圧」に頼るしかないという意味なのか、それとも、いくら小沢でも「アメリカの圧力」をはねのけてまで「政争の道具」にすることはないだろうという意味なのか。それとも、参院で勝利して手に負えなくなった野党との交渉は今後はアメリカにすべておまかせしたいという意味なのか。なぜ、「シーファー・小沢会談が設定されたことによって」、「重大な選択」を迫られることになるのか。「シーファー・小沢会談」があろうがなかろうが、民主党が「重大な選択」を迫られていることには変わりない。

 2)「民主党が日米同盟の意義を選ぶか、延長問題を政争の道具にするか」「きわめて重大な選択」
 「延長に異を唱えること」=「政争の道具」というロジックは短絡的である。
 「延長に異を唱えること」=「日米同盟の意義の否定」というのも短絡的思考である。
 こうした短絡思考で、社説ではなく報道記事を書いてしまうとは、かつて「挙国一致」して「国益」を損なった経験を忘れてしまったのだろうか。
 結局、「延長に異を唱えること」は許されない(許さない)ということが言いたいのだろうか。「国益」のためには「挙国一致」政治で望むべきとの衆院議長の発言ともども、時代錯誤だろう。


 言うまでもなく、延長問題に異を唱えることがそのまま日米同盟の意義の否定ということにはならない。また、延長問題について議論することは、国益とはなにかということについて考える上でもよい機会である。日米同盟にどのような意義があるのかについても再認識できるような実り多い議論をぜひ期待したい。


 民主党に言いたいのは次のことである。
 
 「国益」のために必要なのだという強い信念があるならば、たとえ「政局」になろうとも、「責任政党」としての役割をしっかりと果たしてもらいたい。
 
 「国益」のためには仕方ないので、荒立てて「政局」にはせず、「責任政党」の振りをしておこうという路線だけは、やめていただきたい。それは、万年野党への奈落を用意するだけである。

 かつての社会党のような万年野党路線への奈落とは、決定的な問題になればなるほど尻込みして政局にできず、どうでもよい表面的な問題−たとえばEメール問題のような−になると、スタンドプレー的に対決図式を演出しようとする、そんな野党になりさがるという意味である。



 かくして、特措法延長問題の行方は見逃せないのである。
http://insite.search.goo.ne.jp/sankei/search.php?SORT=date&PT=sankeiweb&MT=%A5%C6%A5%ED%C2%D0%BA%F6%C6%C3%CA%CC%C1%BC%C3%D6%CB%A1&SEL=sankeiweb&FM=



追加(8/9)〜小沢=シーファー会談の結果に関する報道
産経ニュース(産経新聞)
U.S. Envoy Pitches Afghan Mission to Japan Opposition(New York Times)


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