元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

2008年度「政治学」授業のテキストについて

テキストが一冊だけだと複眼的な見方が身に付かないのと、政治学とは本来的に対立・矛盾するたくさんの言説間の争いという現象を対象にすることを宿命づけられていると考えるので、政治学の授業では、学生になるべく多くの本を読ませるように心がけようと思い始めている。
最近は、テキストを一冊に決めてそれをやるというのではなく、テキストはなるべく複数にすること、またテキストに関連する参考文献を紹介し、ときにそれをレポート課題にもするという方向にシフトしつつある。
一昨年度からレポート課題は、4回課すことにした。授業3〜4回に1本のレポートの割合になるが、とにかく学生に考えさせて書かせることが大事だと思うようになった。(実は、読む手間は半端じゃない。。。ストレスがたまるのである。)
最近の学生レポート事情について(または、コピー&ペーストによるレポート作成の見分け方(笑))


テキストと参考文献は、単行本でも良いと思うのだが、ひとつの講義に単行本2冊以上(1冊2000円前後として4000円以上)というのは、標準的な学生には酷らしい。そこで、最近の新書ブームに乗っかるわけではないが、新書が実に手頃に思える。
ということで、たとえば昨年の秋学期には、「立憲制度と民主政治」をテーマに、テキストに新書4冊を選んだ。一冊700円として2800円。ちょっと高い単行本一冊分と思えば許容範囲だろう。
憲法とは何か (岩波新書)/憲法と平和を問いなおす (ちくま新書)/これが憲法だ! (朝日新書)/日本国憲法とは何か (PHP新書)
で、レポートは4回。たとえば、テキストの一冊を丸ごと読んでレポートしろとかいう課題を出す。
情報過剰の時代において、一冊のテキストのみを授業で取り上げるというのもどうかなという反面、そういう時代だからこそじっくり読むことの大切さも伝えたいという気持ちもある。
去年の春学期には、「グローバリゼーションと国民国家」をテーマにしたかったので、無謀を承知で、ネグり・ハート『<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』をテキストにして、読ませたりもしてみた。それと『マルチチュード』上下二冊もテキストにした。
マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)
マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)


ちなみに春も秋も、授業の内容は、テキスト批判である。
これも複数の視点を身につけることを意識してのことである。テキストの視点と講師の視点が同一では、あまり勉強にならないのではないかということだ。
別の言い方をすれば、自分の書いたテキストを(往々にして出版社との関係で)学生に買わせるというのは、適切な授業方法なのだろうかという思いもある。その先生の授業を聞かなくてもテキストを読めばわかるわけで、ならば授業に出ずにテキストを読めば済む。あるいは、14回の授業でなく、2〜3回の講演で済む話だろう。
情報過剰の時代にあっては、時間費用に対する学習効果についてもっと敏感になるべきだろう。

そんなわけでまだまだ模索は続くのだが、シラバスの締め切りが近づいている。2008年度のテーマは「格差社会から成熟社会へ」に決めてある。
というのも共著で『格差社会から成熟社会へ』という本を9月に出したから、これを売らないといけない(笑)。
学生もいい迷惑だと思うが、6人で執筆しているので、自分のも含めてそれぞれの章を徹底的に批判の対象にしようと思っている。
格差社会から成熟社会へ

この一冊だけでは、芸が無いので、格差社会あるいはその是正について書かれた新書はないかと探してみたが、いいのがない。タイトルに格差とある新書10数冊を乱読したが、内容的なバランスに欠けたり、読み捨てるような内容だったりで、授業のテキストにならない。
結局、定番の次の二冊に決めた。一冊は単行本だったのが文庫化されていたのでこれにした。
一冊は、『希望格差社会 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫) [ 山田昌弘 ]

もう一冊は、『格差社会 何が問題なのか (岩波新書) [ 橘木俊詔 ]
格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

まあ、あとは「格差」に関わる本を自由に一冊とりあげてレポートさせることで、もう一冊読ませようかと考えている。