元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

2007参院選

7月29日投票の参院選について書いておきたい。

社会保険庁の問題が完全に安倍政権への逆風となっている。

自民党への支持率の減少傾向はここに来てやや持ち直しつつあるものの、内閣不支持率は就任以来の最高値を示している。他方、民主党の支持率は急激に上昇している。
http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin2007/news/20070718it01.htm
http://www2.asahi.com/senkyo2007/news/TKY200707190567.html
投票日一週間前の新聞各紙の予測ではこぞって「与党の過半数割れも」と報じている。

当日の投票率次第だが、自民が40議席台前半以上を獲得することはかなり難しそうである。予定通り今日22日が投票日だったら、投票率は55%を大きく越え、自民党が30議席台を大きく割り込んでいた可能性も否定できない。他方、民主党は50議席台後半以上を獲得しそうな勢いである。

投票日当日の天気や、刻々と変化する投票率の推移などによっても、投票所への有権者の足の伸び具合が違ってくるのが、最近の選挙の特徴である。数パーセントの投票率の変動で、10議席前後ないしそれ以上の議席の変動がありうる。投票率次第で結果が大きく違ってくるということだ。

ちなみに、2人区(12選挙区)のほとんどで与野党が棲み分けて共存しているので、勝敗のゆくえは1人区(29選挙区)と3人区(5選挙区)および5人区(1選挙区)の結果が左右する。
http://www2.asahi.com/senkyo2007/chart/070712a.html

今回の場合、比例区を含めて、「自民」と「民主」で約100議席を奪い合う構図となることが予想される。
ちなみに、前回(2004年)は投票率が56.57%。自民49議席、民主50議席をそれぞれ獲得し、2003年の衆院選での民主党の躍進とあわせて二大政党化状況が語られた。ただし、前々回(2001年)は投票率が56.44%。自民64議席、民主26議席だった。国民的支持を受けた小泉首相無党派の支持を受けた選挙だった。

今回の選挙であるが、高齢者層を中心とした年金問題に対する怒りがどう投票行動に現われるかに注目したい。従来の自民支持層の離反が予想されるが、それがどの程度の規模の動きとなるのか。
さらに、無党派票の多くは民主に流れそうである。ただし、安倍政権以外の政権選択肢が見えない状況の中、投票日に向けて安倍内閣支持が案外、持ち直していくような予感もする。

大胆に予想してみよう。どうせ緻密な計算をしても、当日の風向き次第で10議席前後の誤差は出る。マスコミ予想だってこの10年当たったためしがない。当日夜8時の投票締め切りと同時に各テレビ局が画面に大写しにする議席予測ですらかなりの誤差がある。

平均的に見て、投票率3%の上昇で、風を受けたほうの候補者の得票のほぼ1割増える。選挙区ごとの地盤の強さの違いも考慮に入れ、中高年層の自民支持からの離反を考慮に入れて、自民と民主の拮抗ポイントを投票率54%と想定すると次のようになる。

投票率  自民  民主  一人区での与党の勝敗
 54%   49   49       15勝14敗
 57%   42   56       10勝19敗
 60%   35   63        5勝24敗

まあ、こんなところでしょう。たぶん。

投票日までに時間と気持ちの余裕があったら、選挙区ごとに分析してみようかとも思うが、いまのところあまりその気が無い。深く考えずにただ結果を待ちたいという心境である。

むしろ興味は参院選後の政局にある。今回の参院選自民党が大敗しても、衆議院では300議席の圧倒的多数である。安倍首相の責任を問う声は出るだろうが、どんなに大敗しても内閣総辞職は考えにくい。すぐに衆議院を解散するという話にもならない。要するに、衆参で与野党のねじれ現象がしばらく続くことになる。

安倍内閣が退陣しない場合、野党としては、安倍内閣に対して不信任案を突きつけるという選択肢をもつことになるが、問題はタイミングである。衆院は与党が圧倒的多数を占めている。不信任案は自民党内からの離反および与党からの公明党の離脱がない限り内閣不信任案は可決されない。可決の見通しが立たないところで不信任案を提出しても逆効果である。いわゆる政界再編状況が作られるのかどうかが一つのポイントとなる。民主+公明+自民内旧保守本流(すなわち自民党の再分裂)という可能性である。

もう一つは、政局運営上、安倍内閣民主党に接近する可能性がある。当然、国民新党などを含めて、参院選直後から自民党は他党派議員の一本釣り(自民党内では「しばらくは釣堀のおやじをやる」と言うらしい)を進める。釣堀のおやじは民主党内にも釣り針を投げ込むだろう。

10年前の政局を思い出す必要がある。
1998年の参院選自民党は44議席と大敗し、橋本龍太郎内閣が退陣を余儀なくされた。橋本首相の退陣を受けて行われた首相指名選挙では、衆議院では小渕恵三が指名されたが、参議院では「野党共闘」の機運の高まりの中、共産党自由党民主党代表の菅直人に投票することで、菅直人が首相指名されるという場面を生んだ。
このときの政局は、いわゆる不良債権問題に端を発した金融破たん(北海道拓銀山一証券長銀日債銀の相次ぐ破たん)問題を抱えていた。金融再生法案をめぐる国会審議の中で、参院少数与党となった自民党は、野党民主党の金融再生法案を丸呑みするという態度に出た。何でも呑み込む自民党に対し、菅直人代表率いる野党民主党は、金融危機の解決が先決でありこれを「政局にしない」という態度をとった。この野党第一党の態度が、野党共闘の機運に水を差すことにつながり、その後の政局はむしろ自民党中心に事が運ばれていくことになった。その後、自自連立から自自公連立、自公保連立へと政局は展開していった。いまの自公連立政権の起源はここにある。
現在民主党党首である小沢一郎は当時自由党の党首として自自連立を推進した立場にあったが、これについては、野党共闘が崩壊し、民主党が当てにならない状況の中での選択として理解可能なものであった。
2000年4月に小渕首相が倒れ、森政権が成立。6月の総選挙前には小沢自由党は自民との連立を解消。総選挙後も森政権の不支持率は高く、その年の11月には、いわゆる「加藤の乱」が起きた。自民党元幹事長の加藤紘一が、「野党の提出する森内閣不信任案に同調する」動きを見せたのだった。不信任案に賛成するということは当然のこととして離党覚悟の決断だと思っていたのだが、そうではなかった。国民は拍子抜けることになるのだが、離党の覚悟を欠いた「加藤の乱」は結局は鎮圧されて終息した。
森内閣では2001年参院選を戦えないということで、森内閣は4月に退陣し、2001年の総裁選挙で小泉純一郎が勝利し、ここからいわゆる小泉劇場が幕を開けた。

さて、小沢民主党は、1998年の参院選後の政局と違う対応を取れるだろうか。
安倍首相が退陣しようが衆院で圧倒的多数を占めている自民党政権は続くのであって、要するに、衆参で与野党のねじれ現象がしばらく続くことになる。これが前提条件である。
野党としては、自民党内閣に対して不信任案を突きつけることで総選挙へと局面を開きたいところだが、衆院は与党が圧倒的多数を占めており、内閣不信任案は可決の見通しは立たない。小沢民主党としては、公明党自民党の一部を引き剥がすことで、民主+公明+自民内旧保守本流(すなわち自民党の再分裂)という「政局にしたい」ところである。
あるいは、98年と同じように、自民中心の政権に野党が巻き込まれていく事になるのかもしれない。国民新党などはとっくにフラフラしている。だれが首相になろうが、自民党は年金その他の問題などで民主党案の丸呑みを進めていくだろう(そうせざるを得ない)。憲法改正問題も含めて自民と民主の歩み寄りという可能性もないわけではない。

どういう政局になるかは、参院選後の民主党に課せられた責任が大きい。
もちろん、公明党憲法問題と連立問題に決着を付けるべきだろうし、自民党内のハト派加藤紘一谷垣禎一ら)も離党も含めてそろそろ態度をはっきりさせるべき時だろう。

ちなみに政権成立前から、安倍政権は6年続くと僕は豪語しているのだが。。。(笑)

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