元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

「どぶ板」プラス「風」−−そして「政局」へ

民主党の勝因として、二つあげておきたい。
ひとつめ。小沢党首を先頭に一人区を中心とした「どぶ板選挙」を地道に追求したこと。これが農村部における自民党基盤を掘り崩していった。農村部の経済状況や社会保険庁問題も農村部での自民離れを決定的にするうえでの追い風となった。
ふたつめ。都市部では、社会保険庁問題などを主要因とした安倍内閣への不支持の急増が、民主党への強い追い風となった。

【予想と結果】投票一週間前に書いておいた予想は次の通り。結果は赤字で示した。投票率は60%には届かないが前回並みかそれ以上だと思っていたので、ほぼ予想通りだった。安倍首相続投についても予想通りである。
投票率  自民  民主  一人区での与党の勝敗
 57%   42   56       10勝19敗
 58.64% 37   60        6勝23敗 60%   35   63        5勝24敗

22日の日記にも書いたとおり、問題は今後の政局である。

民主党は次の二つの路線のいづれかの選択を迫られる。

第一に、公明党の連立離脱と自民党の分裂を誘発するような「政局」をめざす路線。安倍自公政権に取って代わり、政権与党を目指す戦略である。小沢党首はこの路線をとろうとするだろう。
第二に、これに対して、「政策」で建設的な提案をめざす路線がある。政略的な敵対路線に対しては否定的で、いわゆる「建設的な野党」をめざす路線である。民主党内の政策派の若手にこの傾向が強い。

政局か政策か。今後さまざまな場面で、どちらに優先順位を与えるか選択を迫られるはずである。

政局重視の立場は、連立からの公明党の離脱や、自民党からの自民党ハト派の離脱を誘発するという目的を優先させ、政策としての正しさや一貫性を犠牲にしても、妥協を図ろうとするだろう。
政策重視の立場は、これに対し、あくまでも政策としての正しさや一貫性にこだわる立場から、政略的なかけひきや毒々しい「大人の」妥協には反対しようとするだろう。

政局派の勝利は、政界再編への緊張を高めることができるかどうかにある。自公に対して政権離脱と分裂の緊張を高めることは、民主党の政策派との緊張を高めることにもつながる。その意味で、政局派は、民主党の分裂をも辞さない姿勢をとることを迫られる。

政策派は、政策を一貫させるためには、政界再編成が必要だということを認めたほうがよい。

小泉自民党は、自由主義へと大きくシフトした。安倍首相になってから、保守色が強まる一方で、党内力学が働くかたちで、自由主義的傾向にはややブレーキをかけられた格好になっているものの、依然として成長重視の自由主義的改革路線であることに変わりはない。
逆に、小沢民主党は、自由主義化していた民主党の政策傾向を、社会民主主義的な方向へとシフトさせてきた。自由主義路線を徹底した小泉路線への対抗上、そうすることを余儀なくされてきたという事情も見逃すべきではない。
今回の参院選で吹いた風は、安倍政権の成長重視の自由主義的政策と保守主義的傾向に対する社会民主主義的反動とも言いうる。その意味でも、小沢路線は成功していると言える。

自民党内には依然として、社会民主主義的政策路線をとる旧保守本流ハト派がいる。民主党内には、戦後レジーム自由主義的改革に強くシンパシーを感じる若手政策派が存在する。この自民−民主の両党を横断する政策志向のねじれ現象をどこかで解消する必要がある。

「政策を政争の具にする」ということではない。政策に沿ったラインでの政党再編にどこかで決着をつける必要があるということだ。政策は目的か手段かという問題でもない。

安倍首相続投については、予想通りであるし、それ以外の選択は現実的ではないので、素直に支持したい。というよりも、逆説的なことに、今回の結果を受けて、むしろ自民党内での安倍総裁の力は強まる方向で作用するだろう。政権発足時には妥協せざるを得なかった党内人事と組閣人事についても、今度は、安倍色を鮮明にした思い切った党内人事改造と内閣改造が可能になる。小泉の後継としての本領が発揮される場面である。鈍感力を発揮しつつ逆転の発想で、党内の妥協を排して、自信を持って突き進むことでかえって道は開ける。
自由主義的改革路線をさらに強力かつ鮮明にして推し進めていくことが安倍政権が長期化するうえでの必要条件である。

ついでに言えば、参院選で大敗したから退陣せよという議論は、日本国憲法に定められた議院内閣制の否定につながる議論になるので、注意して発言したほうが良い。

今回の参院選では、いわゆる「亥年現象」を脱却したことも重要である。「亥年現象」については、今回メディアでもだいぶとりあげられたのでご存知の方も多くなったと思うが、一斉地方選後の参院選(12年に1回、亥年に当たる)で投票率が決定的に落ち込むという現象である。これは、地方議員が国政選挙の票集めの中心部隊だった時代の現象である。


もうひとつ。「衆参のねじれ現象」は、今後も頻繁に発生することが予想される。参院は一人区が徐々に増加することでいっそう小選挙区型に近い制度になってきている。3年ごとの改選で、与党が2回連続で負けると、参院では少数与党となるという現象が、今後、さらに頻発することも予想される。
与野党逆転衆院参院でそれぞれ別個にかつ頻繁に生じるという事態はこれまでの日本政治はあまり想定してこなかった。
二大政党化と与野党逆転の制度化が進んできた現状を前提にして、参院選挙制度改革を検討すべき時期に来ている。


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