元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

大連立はないでしょう。解散です。解散も無いです。(訂正)〜集団的自衛権ではなく集団安全保障という選択へ

福田康夫首相と小沢一郎民主党代表との党首会談について。

福田氏が「新体制」(大連立)の話を出したというのは事実だが、大連立にはならない。むしろ党首会談の決裂から、年内解散へと、雪崩を打って政局が展開する可能性が高い。(追記(11/4am):年内解散はない。11/4日記参照

党首会談の中心的テーマは、現在の政局の打開、すなわち、今国会でのテロ特措法がらみの問題に決着をつけることにある。

福田氏側としては、大連立で民主党を丸ごと飲み込んでテロ特措法問題で妥協を図り、国会をとにかく乗り切りたいというのが本音だろう。

「新体制」により政権のポストの多くを民主党に大きく譲り渡すことで、民主党を丸ごと飲み込もうという手法である。かつて、大臣ポストをちらつかせることで派閥どうしの対立の解消や妥協を図ってきた自民党の手法と変わるところがない。

さて、対する小沢氏はどう考えているか。
91年の湾岸戦争以来、それなりの小沢ウォッチングを続けてきた感触で言うとこうだ。
第一に、ISAFへの参加という小沢氏の持論は、テロ特措法への反対という立場と密接に連動しているのだが、集団的自衛権を否定(厳しく制限)し、集団安全保障の理念を主張するものである。

集団的自衛権」と「集団安全保障」は原理的にまったく異なるものである。この点に関しては、豊下楢彦氏の集団的自衛権とは何か (岩波新書)国連憲章51条の成立過程も含めて明らかにしている。参考にされたい。

集団的自衛権とは何か (岩波新書)

集団的自衛権とは何か (岩波新書)

参考までに「まえがき」の一部をやや長くなるが引用しておく。
 「そもそも国連憲章は、『すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を、・・・・慎まなければならない』(二条四項)と規定して武力行使禁止原則を謳っているが、次の三つの場合にのみ武力行使が認められているその一つが、『平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為』の発生に対し、安全保障理事会(安保理)の決定に基づいてとられる『軍事的措置』の場合である(四二条)。この措置は、国連の名において実施される点で『公権力の行使』にたとえられ、集団安全保障と呼ばれる。
 あとの二つは、憲章五一条に規定されているもので、加盟国に対する『武力攻撃が発生』し、安保理が必要な措置をとるまでの間に認められる、個別的自衛権の行使と集団的自衛権の行使の場合である。」
 「『仮想敵』を想定せず安保理の管轄下で実施される集団安全保障(collective security)と、共通の『仮想敵』を設定し、安保理が機能するまでの間においてのみ認められる集団的自衛権(collective defense)とは、根本的に異なった概念なのである。」(以上、「まえがき」)

集団的自衛権と集団安全保障の区別とその理解については、現在の日本政府の見解も含めて極めて不充分な状況にある。小沢氏は、集団的自衛権の無原則的で既成事実的な拡大については、原理的に反対の立場だ。これは湾岸戦争以来、一貫している。湾岸戦争の際、集団安全保障に積極的に関与できなかったことが、小沢氏のこの問題に対する一つの原点を形成している。

集団的自衛権の行使は、現行憲法において明確に否定されていると言うのが小沢氏の立場である。そして、この立場は、国連安保理の管轄下で実施される集団安全保障への積極的参加という立場と固く結びついている。憲法9条は、国連憲章42条と相補的な理念なのである。

この立場からすれば、テロ特措法のような集団的自衛権の無原則的拡張には、賛成できないことになる。逆に、ISAFへの参加は集団安全保障の一環であり、日本国憲法の理念からいっても原理的に積極的に参加しなければならない活動であるということになる。

そこにおいて、危険か危険でないかということは、原理的に問題にならないし、むしろ、危険かどうかで無原則的に集団的自衛権を行使することは原理的に間違っていると小沢氏は主張することになるわけである。

ということで、テロ特措法問題は政府提案の新法ではまとまらない。いまの政局の硬直状態の主要因がここにある。小沢民主党が恒久法の制定を主張するのは、集団的自衛権の行使とは原理的に異なる集団安全保障の理念に立脚した恒久法が必要だとの認識に基づいている。

福田首相は、民主党を飲み込むことで打開を図ろうとしているが、この集団的自衛権と集団安全保障との間の原理的対立が根底にある限り、小沢氏は安易な妥協をしないはずである。仮にこの問題で民主党が割れようとも妥協をしないかもしれない。

この原理的対立を焦点化すべくISAF論文が出された可能性が高いし、政局はこの原理的対立をめぐって展開していくことになる。ただし、この争点がどこまで国民(および与野党の国会議員)に理解されるかはまた別の問題である。

まとめると、今国会を何とか乗り切らなければならない福田氏側は、新体制(大連立)論もちらつかせながら、民主党案の丸呑みを含めて対応しようとするだろう。対する小沢氏側は、以上述べた原理的問題について妥協する気は無いが、民主党が提案する恒久法の丸呑みを提示された場合どうするかが問われるだろう。

できれば年内解散に追い込みたい小沢氏側だが、そのためには今国会を終結させる妥協なしには、話し合い解散という妥協も導けない。

そうなると、テロ特措法問題解決ブラス話し合い解散のための、テロ対策新法&選挙管理のための大連立内閣となるのだが、総選挙を目の前にしてこれは大いなる矛盾である。集団的自衛権と集団安全保障という日本の今後の国際貢献のあり方と憲法のあり方に直結する重大な原理的選択を迫られているのだという認識が極めて薄い現状の中では、国民の目には単なる政治劇の茶番にしか見えないだろう。

追記:結局、民主党が大連立を拒否しました。ある意味で当然のなりゆきで、なんでマスコミがこんなに大連立問題を騒ぐのかも(亀田問題を騒ぐのとほぼ同じレベルってこともないでしょうが。。)よくわかりません。いずれにせよ、民主党内部もざわついてきましたね。


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